1歳くらいの幼児から、イスの上など少しでも高いところに上りたがる傾向があります。ちょっと目を離したすきに、スルスルと上ってしまい、冷や汗をかくことがよくあります。
もう少し大きくなって、活発に外遊びをするようになると、歩道の縁石や小高い土手など高いところを歩きたがります。まだ平地を歩くのもままならない時期だと、大人は「危ない」からと、そういった行動を止めたくなることも多いでしょう。
筋力がついて自由に遊ぶことができるようになると、公園の遊具で高いところに上がりたがるようになります。公園にあるジャングルジムや滑り台の一番高いところを目指して上り、ブランコではより高く力一杯こぎます。
時には、木に登ったり、塀によじ登ったりと、危険なことにも挑戦します。手足を器用に使ってバランスをとることも上手になると、もっともっと高いところに上るようになります。
幼児の時期は、失敗経験が少なく、高いところから落ちると痛い目に遭うことを知りません。高いところに上ると、大人は「危ない」と言って止めさせようとしますが、幼児は「危ない」の意味がわからないので自分から止めることはありません。
「ダメダメ」と叱っても、高いところに上りたがる気持ちにブレーキがかけられません。むしろ、大人が慌てるのを面白がって、たびたび同じことを繰り返すことがあります。
ハイハイしかできなかった赤ちゃんが立って歩けるようになると、見える世界が変わってきます。新しい世界は刺激的で、高いところから見る景色に好奇心を示すようになります。
幼児が高いところに上りたがる理由は、できることが増えてうれしいから、そして見える世界が変わって楽しいからです。育ち盛りの体はどんどん新しいことができるようになり、難しいことへ挑戦したい気持ちが芽生えていきます。高いところというのは、そこへ上る過程や上った先で見える光景が幼児の心を成長させます。
小さい幼児にとって高いところは、何があるのかわからない未知の場所で、日常目にする景色とは別の世界が見られる場所でもあります。高いところに上りたがるのは、非日常を体験したいワクワクする気持ちからとも言えます。
幼児は、体もそうですが、感覚器官も未発達です。五感はもちろん、体をうまくコントロールするための感覚器官が発展途上なのです。そこで幼児は、「前庭覚」という感覚を発達させるために、高いところに上ろうとしていると言われています。
前庭覚は、自分の体の傾きや回転を感じる感覚で、耳の奥にある前庭系という器官が関係しています。重力に抵抗して体のバランスをとるなど、高いところに上ると鍛えられる感覚です。
小さな子が高いところに上っているのを見つけたとき、大人はまず驚いて、危険なので止めさせようとします。幼児は頭が大きくて体のバランスが悪いので、バランスを崩しやすく、ちょっとしたことで頭から落ちてしまうので、高いところに上るのを止める行為は当然のことです。
しかしながら、幼児にとって高いところに上るのは、心身の発達のために必要な行動でもあります。大人は、ケガをする危険を取り除いた上で、幼児の高いところに上りたがる欲求を満たしてあげることが必要です。
「幼児は高いところに上りたがるもの」と認識して、その行動に付き合ってバランスを崩しそうな時に手を添える、うまく上れるようにアドバイスをするなど、高いところに上るのを見守りながら応援しましょう。
一方で、大人の目の届かない場所で高いところに上るのは大変危険なので、まだ小さい幼児であれば、高いところに上る足場になるようなものは排除する、危険なことをしそうになったら「なぜ、それをしてはいけないのか」といったことを伝えることが大切です。
日常的に些細なことでも「ダメダメ」と言い続けていると、本当に「ダメ」なことを止められなくなります。
幼児を預かる園では、ケガをさせてしまうのを恐れるあまり、幼児には高いところへ上らせない方針のところが多いようです。幼児が高いところへ上りたがるのは、バランス感覚を養ったり、高所の怖さを体験できたりするいい機会なので、ケガをしないように遊具の設置を検討するところもあります。
落下しても安全を確保できるように、上れる柱や樹木のまわりにクッションや廃タイヤを設置して、怖さの体験を保育に取り入れている事例もあります。
また、園庭にツリーハウスをつくって、上ることの楽しさや高いところから見下ろす爽快感を体験できる事例があります。ツリーハウスには絵本が置かれており、上った先での楽しみが広がります。