モンテッソーリ教育では子どもの自主性を大切にしています。自主性を中心にモンテッソーリ教育の更なる発展への空間的提案が必要とされました。屋内外・空間の大きさ・活動人数や形態等の多種多様なモンテソーリ活動へ対応できる柔軟な空間、活動を促す空間の設え、集中を妨げない心地良い環境を整えることが求められました。
モンテッソーリの活動が行われる保育室は、見渡しながら日々の活動を自由選択できるオープン型を採用し、他クラスの園児の様子も感じることができ、活動意欲が刺激され、主体的な活動を促しています。
先生と共に設計した教具棚は、自由配置によりコーナー保育空間も創出しました。詳細な家具検討はこどもたちの集中と先生たちの見守りを両立させる保育空間を実現しています。
感受性の高い幼年期を過ごす環境として、刺激や発見の多様なきっかけに満ちた場の創出が必要であると考えました。そのため、多様な環境の中にも落ち着ける居場所をつくり、安心できる空間であるとともに、建築空間、自然、人との新たな関係が生まれる環境づくりを模索しました。そして、 刺激や発見の場として、半屋外のテラス、学びの森など多様な空間を準備しました。
保育室と連続的につながる半屋外テラスでは新たなモンテッソーリ活動が展開され、学びの森では羊などの動物たち、四季の変化豊かな植物との触れ合いの場として魅力的な場所となっています。園庭に面した1階と2階の半屋外テラスおよび回廊は、梁のないRCフラットスラブと鉄骨ポスト柱で構成し、開放的で有機的な平面形状を実現しています。
本園はカトリック園であり、キリスト教の精神を美しさの中で育む環境が求められました。そこで、装飾性のバランスとデザインの変化を意識し、こどもたちの記憶に残る美しい幼稚園を目指しています。
精神性や感性に響く美しさは、カトリックの心を軸に、象徴的な大階段や柔らかな曲線、穏やかな色調などで実現を図っています。保育室、神さまの部屋、図書・制作室等の諸室は十字架に象徴される中庭を囲み、一体的に配置され、こどもたちの活動に誘う連続的な空間構成となっています。
目の前で行われる建築工事を、マイナスにとらえることなく子どもたちにとって教材として、先生には新たな運営への期間として役立つ必要があったため、建築中は子どもたち参加のワークショップ、工事関係者による講演などを行いました。また、園は新園舎建設のホームページを作り、構想の初期段階から設計者選定結果、講評、全24回もの工事便りの発行により建設中の活動を公開しました。
ワークショップにより、子どもたちは建築に興味を持ち、教員は新たな運営への理解が深まり、新たな生活へスムーズに移行できました。今も様々な試行錯誤を通じ教育活動が発展しています。
カリタス学園は幼稚園から中高校までの一貫校であり、敷地となる中野島キャンパスには、幼稚園、小学校、女子中学高等学校、学園本部、宗教センターが建っています。
新園舎は小学校グラウンドと「学びの森」を囲うよう、建物群が向い合う配置とし、学園として一体感を感じることのできる計画としました。学園キャンパスの中心に位置する「学びの森」は、学園全体の中心性と一体感を生み出し、キャンパス全体を繋いでいます。
暖色系の色彩を中心とした建物で構成されているキャンパス全体の雰囲気と、学園全体としての中央通りの美しい並木道、既存樹木を活かした一体的な緑の創出(学びの森)が、柔らかで温かみのある街なみを創出しています。
建築物の高さを抑えた形態、曲線や色彩による柔らかで温かみのある意匠、既存樹木を活かす植栽配置などが、周辺の住宅地の街並みと調和しています。
新園舎、修景されたキャンパスは、子どもや地域の視点が評価され、子ども環境学会の「子どもデザイン賞」や、川崎市の「都市景観形成協力者表彰」を受賞しました。