厚生労働省が示す「保育所保育指針」の中の、「幼児教育を行う施設として共有すべき事項」のひとつに、「自然との関わり・生命の尊重」という項目があります。
そこには「自然に触れて感動する体験」で、「生命の不思議さや尊さに気付き、身近な動植物への接し方を考え、命あるものとしていたわり、大切にする気持ち」を持って生き物と関わるようになることを、ねらいとして掲げています。
子どもたちと生き物の触れ合いの機会をつくるために、保育園で生き物を飼育することが、国のレベルで奨励されていると言ってもいいでしょう。保育園で生き物を飼育するねらいの具体的なものは、生き物に親しみを持って命の大切さに気づくこと、生き物への興味や関心を持つこと、生き物を通じて子ども同士の関係を深めること、などになります。
保育園で生き物を飼育する上で大切なのは、子どもたちを積極的に飼育に関わらせることです。生き物の世話をすることで、生き物に愛情を持って接することを学んで、命と向き合うことになります。短命な生き物であれば、その死を目の当たりにすることもあります。そうした経験を通して、命の大切さを学んでいくことができます。
飼育している生き物を観察することは、生き物の行動や生態に興味を持つことにつながります。例えば、園庭でイモムシをつかまえて飼育したとすれば、イモムシはサナギになったのちに蛾(ガ)か蝶(チョウ)になります。成長とともに姿の変わっていく生き物を観察することで、生き物の不思議さや美しさに気付くいい経験となります。
また、保育園で生き物の飼育に関わることで、子どもたちは、役割分担であるとか、助け合うことなどを学ぶことができます。子どもたちが一緒に生き物と触れ合うとき、生き物への興味や感動を共有します。子どもたちの話題の中に生き物に関する情報が含まれるようになり、会話することで生き物の知識が増えて、子ども同士の関係が深まっていきます。
保育園での飼育には、子どもでも扱いやすい小型で危険のない生き物が適しています。例えば、金魚やメダカ、小鳥、カメ、カブトムシやクワガタ、カエル、ウサギやハムスター、などです。
金魚や小鳥、カメなどは、家庭でも飼育している飼いやすい生き物です。世話もそう難しくないので、世話を子どもに任せやすいメリットがあります。カブトムシやクワガタは、自然豊かな場所であれば保育園の近くで採取できます。幼虫が採取できたら、羽化するまでの成長が楽しみとなります。
カエルも、保育園の近所で採取できる環境であれば、卵から育てることもできます。カエルも、カブトムシなどと同じで成長とともに姿の変わる生き物なので、飼育をしながら生態を学ぶことができます。
ウサギやハムスターは、扱いが少し難しいので保育士さんの手がかかりますが、ふわふわで温かい哺乳類ならではの感触は、生き物へのより強い愛情を育みます。時には、人に対するのと同じような優しさが必要だったり、体調管理が必要になったりします。子どもたちは責任感を持って飼育に関わることを学びます。
飼育する生き物の中には、人にアレルギーを発症させるものもあります。鳥の羽、ウサギやハムスターなどの毛、生き物のフンなどがアレルゲンとなる可能性があります。
アレルギー体質の子どもには、あらかじめ、何に反応するのかをアレルギー検査で明らかにしてもらいましょう。また、飼育していてアレルギー反応があったら、その動物からその子を遠ざけるなどの対策が必要です。
アレルギーは突然発症することもあるので、子どもたちが生き物に関わるときは、マスクをすることを義務付けたり、専用のスモッグに着替えさせたりしましょう。生き物を触った後は、きちんと手洗いをすることも大切です。
園庭にスペースがある場合は、専用の飼育小屋をつくったり、金魚やメダカ、カエルなどの水生生物を育てる池をつくったりしましょう。付近に樹木や草花があれば、そこは動植物と触れ合える自然の遊び場になります。
スペースに余裕がない場合は、ウッドデッキに生き物の飼育コーナーを設けて、ケージや水槽などを置くことも考えられます。水を換えたり、容器を洗ったり、お世話の後に手を洗ったりするので、手洗い場を近くに設置すると便利です。