公園敷地内というと「広い公園内なのだから自由に建築できる」と思われがちですが、決してそうではありません。公園内整備ゆえの様々な問題や制約があります。例えば、公園内用地では一般的に接している道路には給水・排水・ガス等のインフラが全く整備されていません。離れた本管からの引き込み工事が必要です。短い工期の中ではとても厳しい課題です。また、公園はエリアの住民の皆さんが様々な目的で訪れ過ごします。ですから様々な公園利用者に配慮し、周囲の環境にも自然に溶け込む外観が求められます。
様々な課題に直面しながらも、そこで過ごす子ども達にとっては快適で安心できる「第二の家」となるような保育園を創る ー そんなチャレンジが始まりました。
まず取り組んだのが、どのような外観にするかということです。既に広く地域の方々に長く親しまれている公園なので、慣れ親しんできた雰囲気や景観を損なうことは許されません。建物のボリューム感や色、周囲の植栽などへの配慮は不可欠です。と同時に園内で一日を過ごす子ども達には、公園内ならではの自然あふれる開放感や心地よさを感じてほしいのです。
次に、建物のボリュームについては、周辺の樹木の高さとのバランス等を考慮し、高さは抑え、水平ラインが強調されるようなデザインとすることで周囲に馴染む外観を実現しました。その上で、2階までは木々の高さに合わせて設定し、アイポイントとして遊戯室の部分のみ突出させ、強調することで新鮮さや保育施設のやわらかさを自然に印象づける工夫も凝らしています。
その他にも、建物の色彩についての細やかな配慮と工夫を凝らしています。原色の使用は避け白色とあずき色を基本カラーとすることで、公園の緑と自然に調和するよう配慮しました。具体的には、アーチ内部の外壁をあずき色、その他を白色としてメリハリをつけてアーチ構造の美しさを強調しています。そして白色は少し赤色の混ざった暖色系のホワイトとすることで冷たい印象とならないよう工夫しています。これによって、晴天の日以外はほんのり薄ピンク色に見え、周囲の緑とより自然な調和が図られています。
そして、公園内という立地を活かすために植栽もしっかりとした計画を立てました。敷地内は低木~大高木までさまざまな樹種の植栽帯が敷地をぐるっと囲っていました。そこで既にある樹木の配置や樹種との調和を図り、葉張りの大きい大高木なども敢えて枝払い程度で対応することで、できる限り既存樹木の伐採はせず、公園の自然環境を可能な限り保つことを心がけました。その結果、敷地を囲っていた植栽帯が、そのまま保育園を包み込み、敷地外の既存樹木との自然なバランスが保たれています。
当園は子ども達の創造性を育むための造形活動を中心とした保育を展開します。保育士さんたちの季節感あふれるディスプレイや子ども達の創作、作品の展示をするため、保育室にはそれらを優しく受け止めることができる空間づくりが求められました。
まず各保育室は白と木肌を基調としたシンプルで開放的な空間づくりを心がけました。白いキャンバスに絵の具がのせられていくように、子ども達の芸術作品で彩られていくことをイメージしたものです。活動が進むにつれて様々に変化し、楽しさと鮮やかさが増していくだろうことはとても楽しみです。
その一方で幅広い年齢の子どもを受け入れる保育園には快適性・安全性への配慮も欠かせません。しかもそれらがごく自然なかたちで空間に溶け込み、子ども達の発想を妨げないようにする工夫も必要です。
当園はフロア毎に保育年齢を分ける計画でした。そのため各フロア毎に対象年齢に応じたきめ細やかな快適性と安全性への配慮が必要となります。
基本的にハイハイやまだ歩きはじめの0〜2歳児室となる1階については、コルクフローリングの柔らかい床材を使っています。また、子どもの受け渡しコーナーは高さの低いロッカーで仕切ることによって限られた空間でも窮屈さを感じさせないよう配慮されています。
2階は、より活動が活発になる3〜5歳児室となります。こちらは子どもの移動がよりスムーズになるよう丈夫なカバザクラのフローリングで少し硬めにしました。
子ども達が毎日の登園が楽しくなる空間づくりも大きなテーマです。特に低年齢の園児は、登園を嫌がることも多く、保育士・保護者双方にとっては頭の痛い問題。園に来るまでは嫌がっていた子どもでも、到着したら嬉しくなるような空間づくりもまた保育園の設計では大切なことです。
当園では「森のエントランス」というテーマのエントランスを創りました。おまめ型の下がり天井や木のオブジェなどによって演出されたエントランスは、ワクワク感に溢れる明るい雰囲気に仕上げました。
また、エントランスには「絵本ライブラリー」も設けました。そこは単に絵本を読むためだけの空間ではありません。園児の送迎時の不安をやわらげる場所としての機能も持ち合わせています。エントランスから保育室までにワンクッションおける”心の準備スペース”としての役割りも果たしているのです。子ども達は、登園時にこの絵本ライブラリーに立ち寄り、絵本を開き、その世界を想像します。そしてそれは、これから始まる子ども達の1日の冒険物語のプロローグでもあり、そこで芽生えた物語世界の感覚を持って保育室へと向かうことができます。
エントランスは1日のはじまりとおわりを受け止める場です。それは物語の”はじまり”であり”おわり”でもあります。「森のエントランス」は、まるで絵本の世界のような空間によって、子ども達の物語を優しく受け止めています。
当園最大の特徴である公園内の立地は、様々な制約を生む反面、他では得難い大きなメリットをもたらします。それは「光と緑に溢れた開放感」です。それは、子ども一人ひとりの創造性と活動性を引き出すとともに、地域に開かれた子ども施設たる可能性も秘めています。そこで当園では、公園内という立地を最大限に活かした空間づくりに取り組みました。
「集いのホール」は多目的に使用できる広い空間です。日々の保育での遊戯室やランチルームとして利用されるほかにも入園式・卒業式やその他様々なイベントも催されます。そのため広い空間ならではの開放感を活かしながらも、様々な利用方法に対応できる柔軟性を持った空間づくりが求められました。
まずアーチ型の高天井やカーテンウォールを使用して、開放的で明るく、景色の良い場所となるようにしました。また、どんどん活動的になる子ども達に応え、遊戯室としての魅力を高めるためにボルダリングや吊り輪型のペンダント照明を設け、子ども達がワクワクするような空間づくりを目指しました。また、夏の間はプールテラスと連続して着替えなどのスペースとしても活用できるよう細やかな工夫も凝らしています。
「集いのホール」は同時にランチルームとしても利用されます。子どもにとって「食べる」ことはとても大切な行為です。おいしく食べることは、子どもの創造性や活動性を引き出す源でもあるのです。そのための空間づくりも重要な要素となります。その上で、公園を見渡すことができる明るく気持ちの良いホールは子どもたちの食欲を促し、成長の力を生みだします。そこで「集いのホール」では、食べることが楽しい、好き、と思える時間をつくる空間づくりも意識しました。また、隣接する調理室とホールは透明ポリカの建具でつくり、子どもたちがご飯がつくられる様子をみて楽しむことのできる仕様としました。自分自身の食べているものが料理されていく過程を直に見ることができる環境は食育の観点からもとても有益なものとなっています。
「集いのホール」は、日々の保育での利用だけではなく、入園式・卒業式などのイベントでも利用されます。そのため「ハレの日」の舞台としての空間づくりにも気を配っています。西側中央には昇降ステージを設け、隣室となる地域交流室がバックヤードとして利用できるようステージサイドには扉も設けました。明るく開放的でワクワクするような空間は、ハレの場所としても最適な空間となりました。
このような様々な工夫と配慮によって「集いのホール」はとても開放的で明るく柔軟性に富んだ空間となりました。
公園内に立地する当園は、単に園児の保育だけに限られた施設ではありません。地域に開かれたコミュニティの場としての役割りも求められます。そこで当園では「保育と地域交流」も大きなテーマとして挙げられました。
また3階の「集いのホール」の隣には「地域交流室」が設けられました。ここは、子育て支援事業や地域交流の場となる。地域や公園に対して開かれた場を設け、積極的なつながりをもつことで、この場に保育園の存在意義をもたせ、地域や公園利用者に愛される保育園を目指しています。
エントランスホール付属の「絵本ライブラリー」もその一翼を担っています。このライブラリーは単に子ども達のためだけの空間ではありません。保護者にとっても有意義な場所です。都市部では家族の孤立化が進む中で、子育ての悩みを抱える保護者たちの情報交換や休息の場所が不足しています。この問題を解決するために大きな役割りを果たしているのが「絵本ライブラリー」です。登園やおかえりの際、保護者の皆さんはこのスペースで他の保護者との会話や子ども達の様子についての情報交換などができます。また、エントランスホールには、プライバシー性の高い個室の相談室も設けられています。保護者お一人おひとりの心配ごとや悩みを自然なかたちで受け止めるための配慮です。
このようにエントランス空間は、エントランスホール・絵本ライブラリー・相談室が一体化したコミュニケーションスペースとしての役割りも担っています。
また3階の「集いのホール」の隣には「地域交流室」が設けられました。ここは、子育て支援事業や地域交流の場所となる。地域や公園に対して開かれた場所を設け、積極的なつながりをもつことで、この場所に保育園の存在意義をもたせ、地域や公園利用者に愛される保育園を目指しています。
大都市住宅密集エリアにおける子ども施設の建設は容易ではありません。土地の確保、迷惑施設としての反対の声...そのような中で、公園内用地利用という斬新な挑戦を実現した当園は、大都市公園の利用者と子ども施設の共存共栄を探った施設です。そして、その挑戦は確実に成果をあげています。
当園は開園の告知段階で定員130の3倍を超える400人以上からの応募がありました。そして現在でも区内屈指の人気保育園です。保護者の方々からは「公園内という最高の立地で嬉しい」「公園の緑を取り込んだ保育室が素敵」といった声が寄せられています。また周辺住民の方々からも「以前からあるように公園に馴染んでいる」という意見をいただきました。
そして公園内保育園という高いハードルに挑戦し、成果をあげた当園は、公園という環境を活かしながら地域に開かれた施設としてのオープン性、子どもの視点に立った心地よさと使いやすさという設計コンセプト/デザインが高く評価され第12回キッズデザイン賞を受賞しました。