「幼保連携型認定子ども園」は、文字通り幼稚園の機能と保育園の機能をあわせ持った施設で、開園時間は1日11時間、土曜日も開園することが原則となっています。このため、お子さんを持つ親の幅広いニーズに1つの子ども施設で応えることができるという大きなメリットがあります。また単一施設で複数の子ども施設機能を賄うことができるため、東京のような人口密集地域でも限られた建設用地で新設できます。
このように幼保連携型認定子ども園は、夫婦共働きが当たり前となった現代の子育て世代ニーズにジャストフィットする制度です。実際、全国、特に東京などの大都市圏では、保育園待機児童問題解決と幼児教育充実ニーズへの対応を併せて解決するための有効な手段として注目されており、地域自治体も参画した官民共同計画なども数多く検討されています。
しかし、まだ始まったばかりの歴史の浅い制度だけに、いざ具体的な建築計画を検討しようとすると様々な課題に直面することも大きのが実情です。
その中でも最も基本的でかつ最も解決に創意工夫を要する課題が「建築基準」です。
幼保連携型認定子ども園はその名の通り、幼稚園と保育園の特徴を兼ね備えた子ども園です。当然幼稚園と保育園両方の建築基準を満たす必要があります。しかし、元々幼稚園と保育園は違う目的で運営される施設ですから、当然建築要件や建築基準の内容には異なる点も数多くあります。
幼保連携型認定子ども園の場合、もし幼稚園/保育園の建築基準の違いが問題となる場合には、原則としてより厳しい建築基準を適用することとなっています。しかし、この点が実際の建築計画や設計の局面では数多くの課題や矛盾を生みだすことになります。
分かりやすい例の一つが建物の階数です。特に大都市の密集地域の幼保連携型認定子ども園建築では、限られた狭い敷地内に幼稚園と保育園の両方の機能を併せ持つ施設を建設しなくてはなりません。商用施設や住居であれば3階建て以上の高層化によって多くの問題が解決できますが、幼保連携型認定子ども園の場合にはそれが大きなハードルとなります。
従来の建築基準では、保育園は一定の条件を満たせば3階建ても可能です。しかし幼稚園については建物は2階建て以下することが定められています。多くの方が知らないのですが、実は「3階建て幼稚園」は原則存在しないのです。
しかし大都市密集地域で幼保連携型認定子ども園の建設を行う場合には、制約は非常に重くのしかかってきます。
この問題について、全国の自治体の対策は現時点ではまちまちです。例えば世田谷区では、世田谷区幼保連携型認定こども園の学級の編制、職員、設備及び運営の基準に関する条例案の中に「園舎は、2階建て以下とする。ただし、特別の事情がある場合は、3階建て以上とすることができる。」という条文を入れています。同様の特例を検討している自治体は他にも見られますが全てではありません。しかも何れの場合も「特別の事情がある場合」といった曖昧な表現となっており、実際の建築計画や設計の局面では、各自治体と何度も協議・交渉を重ねる必要があるのです。
ご紹介した建物の階数制限の問題は、数多くある課題の1つにすぎません。その他にも園庭や保育室の階数など解決しなくてはならない建築設計上の課題が数多く存在するというのが実情です。
社会状況や経済状況、子育て世代のライフスタイルの急激な変化に伴って、幼児教育・保育施設拡充ニーズは急速に高まっています。実際、各地の自治体の様々な施策によっても待機児童解消は果たせていません。この問題を解決するためには、有効な解決策となり得る「幼保連携型認定子ども園」の建築基準の見直しと現実的ニーズに即した柔軟な改正が急がれるべきではないかと考えます。